俺様外科医に求婚されました
コートのポケットに入れていた携帯が、震えながら鳴り響いた。
着信相手が伯母さんだと確認した私は慌ててその電話に出た。
「えっ?」
警察から連絡があったという伯母さんからの話とその内容を聞いた私は、急いで夜道を駆け出した。
向かった先は、埼玉県の川口市にある総合病院だった。
母は、荒川の河川敷でパトロール中の警察官によって保護されたという。
発見された時は、上下パジャマ姿のまま靴も履いておらず、靴下も片方しか履いていない状態で、とにかくひどい低体温症のため救急車で運ばれていた。
「理香子ちゃん!」
病院に着くと、すでに先に到着していた伯父さんと伯母さんが病室の廊下で駆けつけた私に気付いて声をかけてきた。
「中度の低体温症だったらしいけど、意識はあったから保温して落ち着いてるって」
「中には入れるんですか?」
「ああ。今は眠ってるけどね」
伯父さんにそう言われ、私は病室のドアをそっと開けた。
中に入ると、見慣れた母のいつもの寝顔がそこにあった。
「お母さん…」
眠っている母に向かって、私はそう呟いた。
とにかく無事で良かった。
ホッとしていた。
だけど同時に、目の前が、急速に滲んでいった。
荒川の河川敷を歩いていたなんて、お母さんは一体どこに行こうとしていたの?
パジャマのまま、どうして家を出てしまったの?
こんな時期に靴も履かずに歩いていたなんて、きっと寒くてたまらなかっただろう。
間違っても、川に飛び込んだりしてなくて良かった。
無事で…生きててくれて良かった。
でも、お願い。お願いだから。
「心配させないでよ…」
そう呟くと、一気に涙が溢れた。