俺様外科医に求婚されました
「だからそろそろ、嘘つきで卑しいあなたと話をしなくちゃと思っていたんだけど。雇っていた探偵からお母様が入院された情報が飛び込んできてね。これは話がスピーディーに進みそうだと思って。それなら早い方がいいかと、今日はわざわざここまで足を運んだのよ」
スラスラと話をする理事長の言葉に、ぎゅっと両手を握りしめた。
嘘つき?卑しい?どうして探偵なんて使って、母が入院した病院まで知られなければならないの?
「単刀直入に聞くわ。いくら欲しいの?」
「えっ?」
「諒太に近付いたのは、お金が欲しいからでしょ?お母様の病気のことも隠して、よくも諒太を騙してくれたわね」
「違います…そんな、騙したつもりじゃ…」
「お母様も認知症で働けないし、あなたは安月給の看護助手だし。何より親戚の家でずっと居候の身は窮屈だものね。だからいくら必要なのか聞いてるのよ」
母の認知症に、居候の身。
全部、知られている。調べられている。
そして知った上で、理事長は誤解している。
「だから違います…そんな、私はお金なんていりません!」
「そんなことないでしょう?少なくともここにいる伯母様は、諒太と別れてくれるなら手切れ金を用意すると言ったら喜んで受け取ると言ってくれてるわよ。ねぇ、西野?」
「はい。そう仰ってます」
「西野はうちの顧問弁護士なの。だから金額が決まればすぐにでも話が済むわ。あなたの希望金額を言ってちょうだい」
震える手を、ぎゅっと握りしめた。
怒り、怖さ、悔しさ。いろんな感情が混ぜ合わさって頭の中がめちゃくちゃだった。
どうしてこんな話になるのか、私には理解できない。
「…お金なんていりません」
「理香子ちゃん、理事長先生がわざわざ仰ってくれてるのよ?」
「伯母さんはちょっと黙っててください!」
「あらやだ。散々世話になってる立場で黙っててくれですって?あなた達親子のおかげで経済的にも肉体的にも毎日どれだけ大変だったか」
ついカッとなった勢いで黙っててくれなんて言ってしまったせいで、伯母さんは途端に牙を剥く。
「今回のことだもそうだし、これからだってどうするつもり?」
「それは…今考えて…」
「お母さんと二人で出ていく?二人で暮らしてみなさい!どれだけ大変か、理香子ちゃんもやってみたら初めて分かるわ!」
「まぁそう怒らないで。落ち着いて話をしましょう」
仲裁に入った理事長は、そう言うと伯母さんの肩を軽く叩いた。
ずっと迷惑をかけていたことは、ちゃんとわかっている。
伯母さんにどれだけ頼ってきたのかも、わかっている。
「そもそも、今は恋愛なんてしてる場合?」
だから私は、そう言われても伯母さんに何も言い返すことが出来なかった。