俺様外科医に求婚されました

 

「もし諒太と別れてくれるなら、手切れ金以外にも朗報があるの」


シーンとなった空気の中、理事長がそう言って目の前の書類の中から数枚を手に取り、私に差し出した。


「新薬の臨床試験よ」

「新薬?」


書類を受け取った私は、自分の手元に視線を落とす。


「認知症の進行を止める新薬の開発が、全世界で三千人規模の臨床試験を行う最終段階に入ってるの」


新薬の…開発。
その言葉を聞いた私は、ハッとして書類に目を通していった。


‘‘認知症の根治薬開発はことごとく失敗していますが、今はこれ以上症状を悪化させないことを目的とした薬の開発に焦点が移っています。
これは、そんな新薬の中のひとつです’’


一枚目の書類はそんな文章から始まっていた。
そして読み進めていくうちに、私の視線はあるところでピタリと止まった。


それは…

‘‘進行を止められる可能性はあります’’

という、今の私が望んでいることを叶えてくれるかもしれないという微かな希望を感じさせるものだった。


しかし、読み進めていくうち、新薬の試験は被験者の半数に新薬を、半数に既存薬を投与するらしく、臨床試験に参加したとしても新薬が回ってくるかどうかは確率二分の一だという。

また、当然のことながら副作用の危険性もあると記載されていた。

臨床試験とは、人間の体を使い効果を実験するようなものだ。
効果がどれだけあり、副作用はどれだけ出るのか。それを調べて、本格的な開発へと進んでいく。


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