俺様外科医に求婚されました
「その臨床試験の割り当てが、都内の病院にも来ているの」
その言葉に、私はすぐに顔を上げた。
理事長と私の視線が真っ直ぐに繋がる。
「私の古い友人に、大学病院の教授がいてね。今回の臨床試験はその大学病院で行なわれるらしいわ」
大学病院の…教授。それを聞いた瞬間、私は悟った。
それはおそらく…諒太が婚約させられそうになっていた、レイナさんという人の親だ。
「どうかしら?もし臨床試験に参加したければ、優先的に参加させてもらえるように話をするつもりだけど」
理事長はニコリと微笑み、私を見つめる。
心の中が、揺れ動いた。
これを逃せば、臨床試験への参加なんて絶対にめぐり合えない。
微かな希望なのかもしれない。でも、効果が現れるのなら大きな希望へと繋がる。
母の病気の進行が、少しでも止められる可能性があるなら…私は藁にもすがる思いでその可能性に賭けてみたいと思った。
「参加させてほしいです。お願いします」
深々と頭を下げ、私は力強くそう言った。
「じゃあ、こちらの条件は飲んでもらえたということで、いいのね?」
だけどそれは同時に、諒太との関係を終わらせろという理事長からの話を受け入れることにも繋がる。
「…それは嫌だと答えたら、臨床試験への参加は出来ないんですよね」
「それはそうよ、何のメリットもなしにこんな話をあなたにすると思ってるの?」
その言葉に、私はキュッと唇を噛み締めた。
「根治薬もない、打つ手もない病気なら、新薬の効果に賭けてみるべきでしょう。お母様もきっと、あなた以上にそれを望んでるわ」
お母さんも…私以上にそれを望んでる…。
確かにそうかもしれない。
お母さんだって、これ以上出来ないことが増えたり、何かを忘れてしまうことは…絶対に嫌なはずだ。
ふぅと息を吐き、気持ちを落ち着かせた。
いや、私はもう気持ちの整理を始めていたのかもしれない。
母の病気を、これ以上進行させたくないという思いがあまりにも強くて…無理矢理にでも諒太への想いを諦めて、この話に納得しなければと…揺れ動く心の中を必死で抑えていたような気がする。