俺様外科医に求婚されました
「どうして相沢先生なんですか」
「相沢だとよりリアリティがあるじゃない。諒太へのダメージも大きいでしょう。それに相沢は、私の言うことなら何でも従うわ」
「何でも従う?いくら何でもそんなめちゃくちゃな話…」
「相沢が医者になれたのは、私が金銭的に援助したからなの。実家の鉄工所が倒産して、大学をやめることになりそうだった彼のことを、諒太が何度も頭を下げてどうにかしてほしいと頼んできた。
だから一流の医者になって、生涯うちで働いてもらうっていう条件付きで、それを承諾したのよ。契約書も存在するわ、ねぇ西野?」
「はい、ございます」
相沢先生…だからあの時、あんなことを口にしていたんだ。
‘‘俺は理事長には散々世話になってきた立場だから、あの人に逆らうことは出来ないけど’’って。
その言葉の意味が、今初めてわかった気がした。
「だから相沢には、アメリカの病院で最先端医療を学ばせるために本当に渡米してもらうつもりよ」
渡米させるって…私と諒太のことで、相沢先生まで巻き込むの?
「ちょっと待ってください、そんなのあんまりです!何の関係もない相沢先生を巻き込むなんて…それだけはやめてください」
「何を勘違いしてるの?相沢には最先端の医療を学ばせて、それをうちの病院で生かせるように渡米してきてもらうのよ?そのタイミングが今回のことと偶然、重なっただけよ」
偶然?そんなわけない。
全部…理事長の策略じゃない。
「西野、出来たかしら?」
「はい。印刷してきますので、少々お待ちください」
西野さんはそう言うと、足早にカウンセリングルームから出て行った。
静まり返る空間の中、時計の秒針が進む音だけが微かに響いていた。
そしてほんの数分で西野さんが戻ってくると、理事長は西野さんから受け取った用紙をザッと確認して。
「これが契約書よ。ここにサインをして」
そう言いながら、私の前にスーッとそれを差し出した。