俺様外科医に求婚されました



母は四年半前の夏、この世を去った。

理事長との約束通り、母は新薬の臨床試験に参加させてもらえたけれど。

その結果は、認知症の効果が出るどころか脳性麻痺を引き起こした上、心臓にも重大な合併症を引き起こし、重い副作用に見舞われた母は…最期は苦しみながら息を引き取った。


「…寒いな」


アパートの階段を降りながら独り言を呟いた私は、肌を刺すような冷たい風に思わず目を細めた。

冷え切った冬の空気と、吹き荒れるような強い風が、私の髪をぶわっと揺らす。

するとまた、今日も思うのだ。



あの時私は、間違った選択をしたと。

冬が来るたび、冷たい風が吹くたびに、いつも思う。
あの時私が選んだ道は、間違っていたのだと。


悔やんでも、悔やみきれない。
時を戻せないことはわかっている。

でも、後悔はずっと消えない。

何故なら私は…母を救うどころか、副作用によって苦しい思いをさせ、死期を早め、天国へと旅立たせてしまったのだから。


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