俺様外科医に求婚されました
「モッチー、506号室お願い」
「はーい、了解です」
毎日仕事に追われ、なんの変わり映えもない日常。
でもそれなりには充実していて、不満などはない。
家と病院の往復で、仕事以外での人付き合いはほとんどないけれど。
私は一人でいることを、これから先も…ずっと続けていくんだと思う。
それはきっと、もう一つの消えない後悔があるからだ。
理事長と契約書を交わしたあの日。
私は諒太と会う約束をしていて、夜の九時に恵比寿ガーデンプレイスで待ち合わせすることになっていた。
だけどあの日の別れ際、理事長に言われたのだ。
諒太とは一切の連絡を断ち、二度と会わないこと。新居の用意が出来るまではホテルを用意するから、家には戻らずしばらくはそこで生活すること。
携帯電話は遅くとも明日までには解約すること。
病院関係者とも一切の連絡を断つこと。
そんな数々の命令のような言葉を受け、それに仕方なく従うことになった私は、約束の時間に待ち合わせ場所には行けなかった。
いや、正確には行ったのだ。
約束の三十分ほど前には、私はすでにその近くにいた。
もう二度と会えないのなら、せめて諒太の姿だけでも最後に見ておきたかったからだ。
物陰から身を潜めて、諒太が来るのを待った。
すると約束の十分前。
諒太は待ち合わせ場所に現れた。