俺様外科医に求婚されました
「はぁっ」
玄関を開け、バタンと閉めたドアにもたれかかると、体から一気に力が抜け、膝からくずれるようにその場に座り込んだ。
「何なの…さっきのアレは」
言いながら、自分で自分をぎゅっと抱きしめる。
するとその瞬間、私は大変なことに気が付いた。
諒太のコートが、まだ肩にかけられたままだったからだ。
慌てて玄関を飛び出し、アパートの二階から下を覗く。
けれどそこにはもう、諒太の車はなかった。
「っていうか、普通いきなり抱きしめる?五年ぶりに会って?」
ブツブツ独り言を言いながら家に戻ると、靴を脱いで部屋に上がった。
一人暮らしには丁度いい1DKのこのアパートに越してきたのは、あの人と別れた五年前の冬だった。
築年数は古いけれど、駅までは10分とかからないし、家賃も安い。
欲を言えば、もう少し日当たりが良ければ最高に良い物件だと思うんだけど。
なーんて。東京には高い建物ばかりで贅沢は言ってられない。
あの頃は何もかもが大変だったし、理事長がここを用意してくれただけでも有り難かった。
母の病気の治療費も、今私が働いている青葉総合病院という新しい職場への働き口も、全て理事長が整えてくれた。
大和 多恵。
大和国際病院の理事長であり、彼の…
諒太のお母様が。