俺様外科医に求婚されました
何も言えなかった。ただ、気付けば涙が溢れていた。
懐かしい小野さんの笑顔に、胸がいっぱいで…言葉が出てこない。
「もうっ、久しぶりに会えたのに速攻泣いちゃう⁉︎」
変わらない声だった。
「そこは笑顔で久しぶり!って言ってくれないと」
変わらない笑顔だった。
だけど、みるみるうちにその笑顔は崩れていき、小野さんの目にも瞳いっぱいに涙が浮かんでいた。
どんどん滲んでいく景色に、たまらず目を瞑った。
すると次の瞬間。
「ごめんね」
小野さんはそう言って、私を抱きしめていた。
ごめんねって…どうして小野さんが?
謝らなきゃいけないのは、私の方なのに。
「…っ……んっ…」
「ずっと、後悔してた。最低だなんて送ったまま、会えなくなって…後悔してたの」
小野さんはそう言うと、ぎゅっと私を抱きしめる。
人の温もりに触れたのは、何年ぶりなんだろう。
温かくて、でも、苦しくなって。
この五年、小野さんがどんな思いでいたのか。
私に送った、‘‘最低’’という言葉でどれほど彼女を苦しめていたのかと思うと、私は目一杯その温もりを抱きしめた。
「ごめ…ね…小野さん…っ…ごめんなさ…」
「ううん…っ、こうしてまた会えたから…もうそれでいい」
「ん…っ…」
「それからね…私、結婚するんだ」
小野さんはそう言うと、そっと体を離して私と向き合った。