俺様外科医に求婚されました
もう二度と、笑えることなんてないと思っていた。
真実を隠し、心に鍵をかけ閉じ込めたあの日からずっと。
もう二度と、笑ってはいけないと思っていた。
でも、彼女がその鍵を開けてくれた。
「私は、全部わかってるから」
「えっ?」
「聞いたの、全部理事長から」
「理事……全部って…本当に?」
「本当だよ。先月だったかな?結婚するから五月で退職するって報告をしにいった時、聞いたの」
「理事長が…どうして…」
第三者に口外するなとあれほど言っていたのは理事長だったのに。
「でも諒太先生には話してないよ。ほらもう、昔のことだし?」
「…うん」
「だから…とりあえずごはん行こ。結婚前祝いで望月さんの奢りね!」
「えっ…」
「ほらほら」
小野さんはそう言うと私の腕に自分の腕を絡ませ、グイグイ歩き出していく。
腑に落ちない思いを感じながらも、小野さんとこうして歩いていると、初めて会った日のことを思い出す。
あの時も小野さんはこんな風に、私と腕を組んできたなぁなんて。
思い出すと、なんだか懐かしくなった。