俺様外科医に求婚されました
この五年。
過去を振り返ることはせずに、必死で前だけを見ようと過ごしてきたのに。
頭の中に記憶のカケラがひとつ落ちた途端、ひとつ、またひとつとそのカケラは次々に転がりだしていく。
「キミ、新人さん?名前は?」
あれは、大和国際病院に勤め始めて3日目のことだった。
仕事を終えた私が着替えを済ませて更衣室を出ると、目の前から歩いてきた白衣姿の彼に声をかけられた。
第一印象は、とにかく爽やかで、綺麗な顔立ちで。
背は高いし手足もすらっとしているし、歩いているだけでサマになる、モデルみたいな人だと思った。
こんなにかっこいい先生がこの病院にいるのか!と息を飲んだほどだった。
「望月 理香子(もちづきりかこ)です。今週から勤務しています」
「お、いい名前だな。おまけに顔もいい。どこの科の看護師だ?」
だけど、少し…チャラそうな人だとすぐに悟った。
「いえ、私は病院で働くのは初めてで。看護師ではなく小児ホスピス病棟の看護助手なんです」
「看護助手…。病院で働くのは初めてなのに、ホスピス棟?」
「はい」
「そうか。最初は肉体的に、それから徐々に精神的にも大変だと思うけど。…頑張って」
そう言われ、すれ違いざまにぽんっと肩をたたかれた。
「は、はい!ありがとうございます」
働きだしたばかりの私は、その時は彼のその言葉の意味がわからなかった。
だけどそれから日が経つにつれ、その意味を知ることになった。