俺様外科医に求婚されました



あの時はまだ、知らなかった。


一緒に焼肉屋に行って、生ビールでひとまず乾杯して。


「初めて会った時に、あ、俺この子と一カ月後に焼肉行くかもって思ってたんだよ、マジで」


そんなことをサラッと言う、いかにも軽そうな人のことを。


「もう一つ言うと、あの時キミの肩を叩いた瞬間、ビビっときたんだよね」

「はい?」

「言うじゃん、運命の人に出会った時とか触れた瞬間にビビっとくるって」


チャラい男が言いそうなセリフを恥ずかしげもなく口にする、その人のことを。


「生憎ですが、私の方は全くビビっとはきてませんし、ビビっときたのは静電気か何かじゃないですか?」


私はまだ、何も知らなかった。


「ったく冷たいなぁ。子供にはスッゲー優しいのに」


そう言ってスネたフリをする彼が。


「俺に冷たくするやつなんて、院内でキミが初めてだ」


偉そうに、そう言って笑った彼が。



まさか、大和国際病院の、跡取り息子だったなんて。



それを知ったのは…

それからもう少し後のことだったーーー。


< 33 / 250 >

この作品をシェア

pagetop