俺様外科医に求婚されました
「返してください」
「いいって、持っていってやるから」
「困ります、先生に運んでもらってるなんて、他の人に見つかったら何言われるか」
「何も言われないって。俺が持ちたくて持ってんだから」
無理矢理段ボールを掴み、力ずくで奪い返そうとしているのに、手を離してくれないせいで二人で段ボールを抱えた状態で廊下を進んでいた。
段ボールを入れる備品倉庫の部屋までは、あともう少し。
五メートルくらいの、僅かな距離だった。
「ちょっと!望月さん!何してるの?」
その、あと僅かな距離を進んでいたその時。
前方から聞こえたその声に、私は思わずギュッと目を瞑った。
あぁ…最悪だ。
声だけで、誰だかわかった。
と同時に、私はガックリと肩を落とす。
何故ならその人は、院内一怖いと有名で、常に周囲に厳しい目を光らせている、あの大島看護部長だったからだ。
あぁ、ついてない。
「これは、私があなたに備品倉庫に運んできてと頼んだものよね?」
大島部長はそう言いながらぐんぐん距離を縮めてきた。
そうです…朝礼で頼まれていました。
「すみませ」
「違うんです。彼女には大丈夫だと断られたんですが、僕が手伝いたかったから手伝ってただけで」
すぐに謝ろうとしたのに。
私の声に重ねるように、先生が大きな声でそう言った。
「備品倉庫に入れればいいんですか?」
「えっ、あぁ!はい!すみません、こっちです」
大島部長は慌てた様子で先生のことを備品倉庫まで誘導している。
…結局、あの人に段ボールを運ばせてしまった。