俺様外科医に求婚されました
「全く納得いってない顔だな」
そりゃあそうでしょう。
いくらこの病院の跡取り息子だからって、そんな理由で不当に立場を利用するなんて信じられない。
「でも、異動の理由はそれだけじゃない」
えっ?それだけじゃ、ない?
「キミの三ヶ月の仕事ぶりを評価した上での正当な異動でもある。大島看護部長から預かった小児ホスピスの毎日の報告書にも目を通したし、小さなミスもない、業務は的確で迅速。こっちでも大丈夫だと確信をもったから決定したんだ」
「…だったら、それを先に言ってください…」
少し褒められたような気持ちになったせいか、苛立ちがほんの少しだけおさまっていく。
「とりあえず、わからないことは吉田さんっていう看護師に聞いて。彼女にキミのことは任せてある」
「…はい」
「一番の診察室にいると思うから、今から行くといい」
「わかりました」
私はそう言うと椅子から立ち上がり、軽くお辞儀をした。
そして診察室を出るため、ドアに手をかけようとした。
「今日は、勤務時間が18時までらしいけど。勤務後の予定は?」
だけどそう聞かれ、ピタッと私の動きが止まった。
くるっと振り返った私は、先生を見てわざとらしく笑顔を作る。
「生憎ですが、予定が入っております。失礼いたします」
そしてそう言うと、急いで診察室を後にした。
「ふぅっ…」
廊下に出た途端、ため息に似たものが自然とこぼれた。
改めて思ったけど、やっぱりダメ。
苦手で嫌いなタイプだ。
あんな人が、天才脳外科医?
人を混乱させて、頭の中をめちゃくちゃにしてくるような人が?
何が効率がいいよ。
何が会える時間よ。
この病院の跡取り息子じゃなかったら、大事なところを蹴り上げてやりたいくらいだ。
「はぁっ」
重い息を吐き、頭の中を整理をした。
大和…諒太。
彼の正体は、ここ大和国際病院の院長と理事長の息子で、この病院の跡取りで。
27歳にして、天才脳外科医。
それから…訳のわからない理由で立場を利用し、職権濫用をする、おかしな人。
それが今のところわかっている、彼の情報だった。