俺様外科医に求婚されました
何だか拍子抜けして、呆気にとられた。
絶対何か言われるものだとばかり思っていたのに、まさか目すら合わないなんて。
私は思わず振り向いてしまった。
スタスタと歩いていく大和諒太は、手術室の手前にある準備室に入っていく。
そしてその姿を見た私は、何故か引き寄せられるように準備室の方へ踵を返した。
準備室の扉には、室内側が見える小窓がついている。
そっとそこから中を覗いた私は、目に映ったその光景にゴクリと息を飲んだ。
どう、表せばいいのかはわからない。
ただ、私は彼の表情に見入ってしまっていた。
いつもはふざけたことばかり言っている、あの人が。
全然医者らしさを感じたことがなかった、あの先生が。
初めて本物の医者に見えたからだ。
力強い、鋭い目。
キリッとした、凛々しい顔立ち。
やけに真面目なその表情は、今までとは違うギャップを感じさせ、手術用の手袋をはめながら自分の両手に向かって何かを呟いている姿が、何故かたまらなく格好良かった。
声は、聞こえなかった。
けれど、なんとなく伝わってくるような気がした。
多分、彼はこれからまた、手術に入るんだと思う。
自分の手をジッと見つめ、何かを言いながらそっと目を閉じた彼の姿。
それを見届けた私は、気づかれぬよう静かにその場所から離れた。