俺様外科医に求婚されました
私は、この匂いが好きだった。
付けている香水の香りを嗅がせてもらったこともあったけれど、それ単体ではこの匂いとは違う。
諒太と混ざり合ったこの匂いは、諒太でしか感じられない。
懐かしくて、恋しくて、愛おしくて。
でも。
切なくて、悲しくて、忘れたい匂いでもあった。
「相沢とは、どう」
「……大和先生には、関係のないことです。コートはお返ししましたので、失礼します」
肩の手を振りほどいた私は、駅に向かってスタスタと歩きだした。
「理香子!ちょっと待って」
諒太にそう呼ばれたけれど、私は決して振り返らなかった。
ただ前だけを見て、急いで歩き続けた。
…ダメだ。絶対に。
絶対、振り返っちゃダメ。
もし振り返って諒太の顔を見てしまったら。
そしてまた、あの匂いに包まれてしまったとしたら…。
私はきっと、理性を失うだろう。
あの約束を、守ることが出来なくなるーーーー。