隣の君は眠り姫
理解不可
朝、毎週恒例の月曜日の集会。
そして少し頭の薄くなった校長の頭いっぱいに日を浴びて反射する光に夏が来たを感じて目を細めた。
過眠症も安定期に入り、油断していた時だ。
全身を支えていた糸みたいなものが切れ、重力によって支えられていない私の身体は地面についたことだけ薄れていく意識で分かった。
目が覚めるとベットに寝かされていて、またやってしまったんだと自己嫌悪に塗れた。
窓から見える太陽がオレンジに街を照らし、子供たちが元気よく帰宅する時間。
「安定期に入ったと思ったんだけどなあ…」
少し怒りを含めた声は誰にも伝わらずに消えた。
コンコン とドアが叩かれたので、「どうぞ」と短く吐き捨てるように言った。
「よ。」
想像していた声じゃなくて勢いよく振り返る。
「……佐藤くん。」
そこにいたのは、暖かい名前を持つ少年だった。
「どうしてここに?」
「プリント渡しに来たら、お前の母さんが入れてくれた。」
母が入れた、ということは家族はもう彼を知っている。あとで質問攻めされるだろうな、と脳の端っこで考えて苦笑した。
「ごめんね。」
「あんま理解できてねぇけども、そういう時はごめんじゃないと思うよ」
「佐藤くんってそんなこと言うキャラだったんだ?」
目の前に佇む気だるげな彼から発された言葉に耳を疑った。
「…うるせ。」
ふぃっと顔を背ける彼に小さな笑みが零れた。
「ありがとう。○くん。」
勇気を出して下の名前を呼んでみた。
ウザがられるかな?大丈夫かな?
そう思いながら彼を見ると彼は固まっていた。
「下の名前で呼ぶな。」
いつもの気だるげな声じゃなくて完璧に拒絶する声だった。
「ごめ……んなさい。」
頬に熱が集まる。
「勘違いしないでよ。僕、ただ単に下の名前嫌いなだけだから。」
「…うん。」
一瞬彼の中の闇が見えたように思えた。
怖くもあったが、何故か嬉しく感じた。