たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
求愛と再会
「それでは、桃城(ももしろ)さんの我が本店への異動を歓迎しまして、カンパーイ!」
幹事の先輩の高らかな音頭と共に、私達の持つビールジョッキがガチンと景気の良い音を立ててぶつかり合う。
「どう? 桃城さん。本店での仕事は慣れた? と言っても、まだ二週間だし分かんないことだらけだよね」
先程音頭を取ってくれた山下先輩が私の隣の座布団に腰をおろし、優しくそう尋ねてくれる。
山下先輩は私の五歳年上で、真面目で気配り上手な男の先輩だ。
「はい。一日でも早く慣れるように頑張ります」
「おっ、頼もしいね。でも無理はしないようにね」
山下先輩はそう言うと、他の先輩に呼ばれたため立ち上がって席を離れた。
本店での仕事は毎日忙しいけど、やり甲斐があるし、職場の人達は皆良い人だ。
私、桃城 綾菜(あやな)は、都内のメガバンクに勤める二十四歳。入社三年目のこの春、本社に異動が決まり、今日は職場近くの居酒屋で歓迎会を開いてもらっている。
ビールを一口飲んだところでハッとする。一人でまったりしている場合じゃない。私はビール瓶を持ち、席を立つ。
「部長、お疲れ様です」
ビール瓶を構えながら部長の隣にゆっくりと腰をおろす。
「ああ、お疲れ」
部長はいつものクールな表情を特に崩すことなく、だけどきちんとこちらに振り返り、そう言ってくれた。
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