たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
「身体、大丈夫か?」
ソファで横たわる私の頭を、部長が隣からそっと撫でる。
大丈夫です、と答えた私に、部長は。
「声、少し掠れてる。水飲め」
そう言って、テーブルに置いたままだったグラスを私に渡してくれる。
声……。はしたないかもって分かっていながらも、抑え切れなかった……。
さっきよりも少し温くなった水で喉を潤す。今は、冷たすぎないこの温度の方がちょうど良いと感じた。
「綾菜」
名前を呼びながら、彼が私のすぐ隣に腰掛け直した。
急に距離を詰められ、思わずとドキンと身体に緊張が走ってしまうけど。
彼は長い指先を私の方へ伸ばすと、私の髪をそっと梳き、優しい眼差しを私に向けて。
「改めて言う。俺と付き合ってほしい」
「部長……」
「……と思ったが、やっぱり、いい」
「え⁉︎」
そ、それは一体どういうこと⁉︎ まさか、こういうことするのだけが目的で、告白は嘘だったの⁉︎
と、疑ってしまったけれど。彼は優しい瞳のまま言葉を続ける。
「ここまでしておいてこんなこと言うのもおかしな話かもしれないが、お前の気持ちがはっきりと俺に向くまで、もう少し待つ」
俺は真剣だ。だからお前もちゃんと考えてほしい。そう伝えた後、彼は私に優しいキスを重ねた。
「……はい」
自然に溢れたこの言葉は、私がきっと部長に恋に落ちる予感に満ちていた。
変だよね。長年忘れられない人がいたのに。
でも、部長に流されたとかそういうんじゃない。
部長は素敵な人。それが分かっているから、私は……。
だけど、突然の出来事が重なり過ぎてまだ少し混乱しているのも事実で。だから。
「……分かりました。じゃあ、今度デートしてくれませんか?」