たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
じゃあなーと手を振りながら先生は帰っていった。

先生の背中が遠ざかっていくのを確認してから、隣にいる彼を「部長」と呼びながら見上げる。

だけど彼は私のことをちらっと見やっただけですぐに目を逸らし、「帰るぞ」と言うだけだった。



同じ電車に乗り、空いている車両のシートに二人並んで腰掛ける。


部長は何も言わない。やっぱり私を見ようとしない。

誤解、されてる……のかな。

だけど私からは、何も言えなくて。



私の家の最寄駅に着いた。
部長が降りる駅はまだ数駅先だけど、何も言わずに一緒に降りてくれた。そのことに少しだけ安心したけど、歩きながら「家はどっちだ」と聞かれたのみで、他は何も言わない。


夜道は薄気味悪くて、夜風は冷たすぎる。もうすぐ夏が訪れるのに、今日はかなり肌寒い。



気まずい。


私が何も言わないから余計に場の空気を悪くしているのだろう。それは分かっているのに、じゃあ何て言えばいいのかが分からない。



私が一人暮らしするアパートまでは、駅から徒歩約十分。
家の前まで無事に到着し、「送ってくれてありがとうございました」と頭を下げる。


すると部長は。


「良かったな」

「え?」

「初恋の人と再会出来て」

良かったな、と言う割には目が笑っていない。
やっぱり誤解されているような気がした。
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