たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
感情的になりすぎてしまった。
後悔はしていないけど、やっぱりもう少し言葉を選ぶべきだっただろうか。

気まずくて、私はバッと彼に背を向けてアパートに入ろうとした。


けれど、後ろから部長に腕を掴まれ、それを阻まれてしまう。



「……離してください」

「嫌だ」

ぎゅっ、と、私の腕を掴む部長の手に力がこもる。
痛い訳じゃないけど、振り払えそうにはない。……振り払いたいと思っている訳でもなかった。


「……悪かった。嫉妬した」

耳元で囁かれる部長の声。
いつもの自信ありげな芯の通った声じゃなくて
、心なしかどこか弱々しい。


「嫉妬って、白川先生に?」

「他に誰がいる。……正直、お前から忘れられない奴がいると聞いた時、誰が相手でもお前のことを奪うだけだと思っていた。だけど薫は……男の俺から見ても良い男だからな。真面目で優しくて明るくて、あいつには敵わないかもしれないと思ってしまった」

「そんな。真面目さと優しさなら部長だって兼ね備えています」

「ほう。しかし俺は根暗だと言いたいのか」

「あっ、いや、そういう訳では……!」

失礼なこと言ってしまったかな⁉︎ と今更ながらおろおろしていると、部長がプッと吹き出した。

「ほんと可愛い。お前」

そう褒めてもらったけど、今は部長の笑顔の方が可愛いです、なんて思ってしまった。



「部長。またデートしてくださいね」

勇気を出してそう言うと、部長は優しく「ああ」と答えてくれる。


「まあ、今日は冷えるし早く家に入った方がいい」

「はい、そうですね。送ってくれてありがとうございました」

「気にするな。どうせ俺もここへ泊まっていくんだからな」

「あ、そうですね……って、え?」
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