たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
「何だこれ?」

私の携帯を片手に、部長が眉間に皺を寄せて怖い顔をする。


「えーと。私にもさっぱりなんですが」

「ったく」

部長は私に携帯を返しながら「行くなよ」と言う。


「薫に会うなとは言わない。だが、会うのは俺も一緒の時とか、同窓会とか、二人きりにならない状況でだ。デートなんかするな」


あまりに真剣な表情でそう言われ、胸がきゅんと疼く。思わず言葉に詰まってしまう。


だけど、何も答えない私を見て何か誤解したのか、

「……あ。悪い。こういうのは束縛、になるのか?」

と、ちょっとバツの悪そうな顔をし、私から目を逸らす。
私は慌てて、

「ち、違います! そうやって心配していただけて、嬉しくてドキッとしました!」

……と、つい余計なことを言ってしまった。恥ずかしい。


はー、と溜め息を吐かれる。
ついさっき〝誰が見ているか分からないから職場で触れるのは駄目だ〟という内容のことを自分から言ったばかりなのに、私ってば……呆れられて当然だ。

「あの、すみません」

そう謝るけれど、部長は右手を口元に充て、

「まったくだ。我慢出来なくなったらどうする」

と言ってきた。


……呆れられた訳ではない?


でも、妙に恥ずかしくなってしまって、それ以上は何も言えなくなる。


そうこうしていると人の気配が迫ってくるのを感じたので、私はエレベーターへ、部長はエントランスへと別れた。


別れてからも、ドキドキが止まらない。


私、やっぱり部長のことが好きになってるのかな……。
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