たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。


その日の午後。

手が空いたのでATMコーナーの掃除をしに行こうかと席を立った。

ゴミを拾ったり、チラシや現金封筒の補充をしていると、後ろから突然「桃城」と声を掛けられる。

その声に、まさかと思いながら振り向くと、そこにいたのはやっぱり白川先生だった。


「せ、先生っ、どうしてここへ?」

「今、授業がない時間でね。仕事で外出する用事があって、たまたま通り掛かったんだ。そしたら、ATMコーナーのガラス越しに桃城の姿が見えたから」

そうなんですか、と私は笑って答える、けど……さっき受け取った〝デートしよう〟というメッセージのことを思い出し、戸惑ってしまう。


「そういえば、LINE見てくれた?」

「えっ」

まさか、こんなにいきなりその話を振られるとは思っていなかった。


「えーと、その」

「デートの誘い、受けてくれるよな?」

「っ!」

やっぱり、先生の打ち間違いとか勘違いとかじゃなくて本当にデートのお誘いだったんだ……!

い、一体どうして? 先生、私のこと……?


……だけど、部長と約束したから。何より私は部長のことが気になっているから。先生とデートは出来ない。


だから、「デートは、すみません」と謝ったのだけれど。


「どうして? 都合悪い?」

「い、いえ。そうではなくて」

「せっかく再会出来たのに冷たいこと言うなよ。行こうぜ」


え、え?

先生の顔、近いっ。

どうしてこんなに私のことを誘ってくるの?

こんな時に限ってATMコーナーには他に誰の姿もなく、先生は辺りを気にすることなく私に迫り続ける。
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