たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
「なあ、いいだろ?」

駄目押しとでも言うかのように、先生がそう言った瞬間ーー



「いいわけないだろ」



その声に反応して振り返れば、腕組みをして不機嫌そうな顔で私達を見つめる部長の姿があった。



「亮! 亮にも会えるなんて偶然だな〜、嬉しいよ!」

突然の部長の登場に、先生が動じる様子はない。少し私から離れて、明るい笑顔で部長に手を振る。


部長は眉間に皺を寄せたまま、言葉を続ける。


「こいつは仕事中だ。口説いてんじゃねぇよ。
綾菜も綾菜だ。なかなか戻ってこないから何かあったのかと思って様子を見に来たら……」

「す、すみません」

私は咄嗟に謝るけれど、先生はきょとんとした表情で小首を傾げている。そして。


「何で誘ったらいけないんだ? ていうか今、綾菜って呼んだ? そんなに親しい関係なのか? 付き合ってはないって言ってたよな?」


言葉に詰まる。確かに、その疑問は湧いてもおかしくないものだろう。


すると部長は。


「ああ。付き合ってはいない。……だけど」

そう言って、突然私の肩を抱き寄せ、


「俺はこいつに惚れてる。だから二人きりのデートなんてさせねぇ」


……と言ってきたのだった。
< 32 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop