たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
その後、部長と会話することはほとんどなかった。
私から話し掛けることはなかったし、部長から話し掛けてくることもなかった。
仕事内容の件で多少話すことはあったけれど、必要最低限の会話しかしなかった。
顔も合わせない。目が合っても逸らす。メッセージも送り合わない。
一方、白川先生との食事は来週の金曜日の夜に決まった。
部長と私の関係は修復しないまま、あっという間にその金曜日がやって来た。
「先生、お待たせしました」
夕方六時に、職場の銀行の近くにある、私立図書館の前の駐車場で待ち合わせをしていた。
先生は車で迎えに来てくれていて、促されるがまま助手席に座らせてもらった。
家族以外の男性の運転する車に乗るのって、そう言えば初めて。何か緊張する。勿論、恋愛的な意味でドキドキするとかそういう訳じゃないけれど。
「どこで食事します?」
「そうだなぁ」
慣れた手つきでハンドルを回しながら、先生が考える。
「あんまりお洒落なお店にすると亮が怒りそうだから、ファミレスにするか」
けらけら笑いながら先生はそう言った。
ほら。先生は私のことなんて何とも思ってない。それどころか、私と部長の関係をこうして気にしてくれている。
部長が考えすぎなんだよ……そりゃあ、白川先生は私の初恋の人で、しかもつい最近まで忘れられなかった人っていうのは部長も知っている訳だから、疑うのも無理はないかもしれないけど……でも、あんな言い方……。
「桃城?」
車は赤信号で停止していて、気が付けば先生が心配そうな顔でこっちを見ていた。
「どうした? 怖い顔して」
「あ、いえっ」
いけないいけない。部長と喧嘩中だからって、それを態度に出さないようにしないと。