たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
「誰が迎えに来るんだ」

「え?」

「こんな所に一人で居させるのは心配だ。迎えか来るまで一緒に居てやる」

こんな所、と言っても有名で健全なチェーン店の前だ。危ないことはきっと何もない。
だけど、万が一のことを考えて部長はこう言ってくれているのだろう。本当、言葉は素っ気ないけど優しい人だ。


でも、部長にも早く帰ってもらわないといけない。だって、お迎えなんて来ない。


「おい、桃城? 聞いているのか?」


ああ、もう駄目ーー。



「桃城?」


急にしゃがみ込んでしまった私に目線を合わせるかのように、部長も同じ様にしゃがみ、私の顔を覗き込む。


「……目眩がして、立っていられません」

「え?」

「私、お酒本当に飲めなくて……だけど私の歓迎会だし、皆さんビール注いでくれるからそれを飲んでいたら……うっ」

迎えが来るなんて嘘だ。私、一人暮らしだし。皆と一緒に帰るのは無理そうだったけど、心配を掛けたくなかったから、この場に留まる為の嘘を吐いた。


「おい、しっかりしろ」

部長が私の腕を取り、何とか立ち上がらせてくれるも、視界がぐらぐらと揺らいで歩くのもままならない。


「タクシー呼んでやる。家はどこだ」

部長が質問してくれているのは理解出来るのに、答える余裕がない。


「……仕方ないな」

そのまま、部長は私の身体を支えてくれながらゆっくりと歩いていく。

少し歩いた先にタクシー乗り場があり、部長が一緒に乗り込んでくれた。


「寝てていいから」

そう言われてつい安心してしまい、そっと目を瞑る。
体調は気持ち悪いはずなのに、すぅっと眠気が襲ってくる。


……あれ、私、部長に住所伝えたかな?


そんな疑問は湧いたのに、私は目を開けることなくしばらく眠りについてしまった。
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