たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
今……何て言われたの?

私が、先生の特別に……?


「それって、どういう……」

「こういうことだよ」


先生が私の肩を抱き寄せ、至近距離で頬を撫でてくる。


驚いて、思わず固まったまま彼を見つめ返すことしか出来ないでいたけれど、ゆっくりと彼の唇が近付いてきたところでようやくハッとした。


「だ、駄目ですっ!」

両手を伸ばし、彼の胸元を押した。

弱々しい力だったはずだけど、先生はあっさり私から離れてくれた。


「ごめんな」


謝られると、何て言ったらいいのか分からない。

先生が考えていることもいまいち理解出来ていない。

だけど、一つはっきりしていることは。


「……ごめんなさい。私は部長……亮さんが好きなので、先生とキスすることは出来ません……」


喧嘩中だし、かなり怒らせてしまっているけれど、私が好きなのは部長だけだ。

先生のことは恩師として尊敬しているし、何より感謝の気持ちでいっぱいだけれど、もし先生が私に恋愛感情を抱いてくれているのなら、私はそれに応えることは出来ない。


すると先生は、

「いや、いいんだ。本当、急にごめん!」

思いのほか明るい笑顔でそう返してくれた。


「桃城が可愛くてさ」

「えっ? も、もう。そういうこと言うのやめてください。からかったんですか」

「からかった訳じゃない」

急に真剣みを取り戻す先生の声。
口元は笑っているのに、その表情は切なげに見える。


「あの頃は、七歳年下の君のことはコドモとしか見ていなかったのにさ。再会して、凄く綺麗になっていたから驚いたよ。同窓会の打ち合わせなんて適当な理由にすぎない。桃城ともっと話したかったんだ」
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