たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
思いもよらなかったその発言に、思わず目を見開く。

再会したあの日から、先生は私のことをそんな風に見てくれていたの?


「でも、私との関係はただの元教師と元教え子だって、この間はっきりと言っていたじゃないですか」

「ああ。この前、君の職場で亮に言ったやつだね? 亮に宣戦布告されて怯んじゃったんだ。俺、昔から亮には何一つ適わなかったから」

その言葉に、私は「そんなこと言わないでください」と首を横に振った。


「亮さんも言っていましたよ。先生は真面目で優しくて明るくて、適わないかもって」

「はは。あいつ、ほんとにそんなこと思ってんのかぁ~? 本当なら、まあ嬉しいけど」

先生らしくない、弱々しい表情でそう笑うから、私の方が切なくなってしまう。
今、先生にこんな顔をさせているのは私だし……。 


「そろそろ帰るか」

先生はそう言って、くるっと振り返り夜景に背を向けて車の方へ歩き出す。
同じように彼についていくけれど、どうにも気まずくて何て言ったらいいか分からない。


「あ、俺の告白なら気にしなくていいから。忘れちゃって。変わらず普通に接してよ」

先に気を遣ってくれたのは先生の方だった。
私、大人になっても先生に甘えてるなぁ。

申し訳なく思う。だけどこの優しさに、高校時代の私は恋をしていた。

先生が私の初恋でした、そのことを伝えてしまおうかと一瞬思ったけど、少なくとも今はそんな中途半端で下手したら思わせぶりなことを言うべきではないと、小さく首を横に振って口をつぐんだ。

その代わりにという訳ではないけれど。


「先生の気持ち、凄く嬉しかったです」

忘れて、と言われたけど忘れたくないくらいに嬉しい。何より、私のことをそんな風に想ってくれて、感謝の気持ちしかない。


「そっか。ありがとう」

そう返しながら先生が向けてくる笑顔は、さっきまでの切なさはほとんど消えていた。

気まずさも随分消えて、一緒に車に乗り込む。
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