たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
「ラジオでも聴くか? あ、音楽の方がいいかな」

「えっと。じゃあ音楽で」

「オーケー。まあ俺の趣味の音楽しか入ってないけどな」

たわいもない会話をしながら、車が走り出す。
車内からは、男性アーティストの曲が流れ始めた。


告白という、まさかの事態に驚いたけれど、結果的に気まずくならなくて本当に良かった。

先生の車の助手席に座るのはこれが最初で最後だと思うけど、元教師と元教え子という関係の範囲で、これからも親しくしてもらいたい。


きっと先生もそう思ってくれていると思った。


「ここまででいいかな?」

ハザードランプを点灯させながら、先生が脇道に車をゆっくりと停止させる。数メートル先に駅が見える。


「はい、ありがとうございます」

シートベルトを外し、車を出ようとしたその時。


「あーあ。俺はいつになったら亮にかなうんだろう」

先生がどこか遠くを見ながら呟くように言う。


「先生。さっきも言ったじゃないですか。先生は亮さんに劣ってないですし、亮さんも先生のこと羨んでいるんですよ」

車から出ようとしていた私は、いったん姿勢を元に戻して彼にそう伝える。


すると。


「けど、実際はさ。負けてばっかりだよ。……高校生の時だって。俺が好きだった女の子を、あいつは横取りしたんだ」

「……え?」


横取りって……部長がまさかそんなことをする訳……。


だけど、先生が嘘を吐いているとも思えない。私の知る白川先生は、嘘なんて吐かないとても真っ直ぐで正直な人だ。
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