たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。

電車を降りて改札を抜けると、時計柱に背を預けた格好で部長が待っていた。
いつものスーツ姿ではなく、水色のVネックのカットソーにジーンズという、ラフな服装だった。そんな珍しい姿にも胸がきゅっと締め付けられるようにドキドキするのだから、私は重症だ。


「お待たせしました」

「ん」

彼は短く答え、そのまま歩き出す。

私も隣を歩いていくけれど、会話はない。


心配してくれたのに言い返してすみませんでした、と謝ってしまおうかな。謝ったら、彼もいいよって言ってくれるような気はする。


それでも、言葉選びが下手くそな私の性格がここでも災いして、何て言ったらいいのか分からないまま歩き続けてしまう。

このままだと会話のないままマンションへ到着してしまう……そう思ったその時だった。


「楽しかったか?」

ボソッと、素っ気なくそう尋ねられる。
やっぱり先生とのことを気にしてくれているんだろう……と思って嬉しくなる一方で、ぶっきらぼうな尋ね方に対して私はどうも素直になれず、


「まあ」


なんて答えてしまった。本当、可愛くない……。
< 46 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop