たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
「まあって何だ」

「まあ……」

ああ、また。何て答えるのが正解なんだろう。楽しかったです、と答えたら誤解されてしまうような気がして言えない。かと言って、つまらなかったです、は違う。


「はっきり言えよ」

私のそんな曖昧な返答が、彼をイラッとさせてしまったようだ。彼は眉間に皺を寄せ、声色には明らかに不機嫌さが表れている。


そんなこと言われても、私は自分の気持ちをはっきりとなんて言えない。それが長年の悩みだし、私がこういう性格であることは彼だって分かっているはずなのに、どうしてそんな無茶なことを言うの。



だけど言葉に詰まる私に、彼は……




「お前が薫に惹かれていても、俺はお前を手放すつもりはない」




と、そんなことを言ってきた。



思わず彼を見つめると、彼は真剣な表情で私を見つめ返してくる。



「たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さないと決めた」



どこまでも真っ直ぐな瞳と声。
私も、自分の気持ちを正直に彼に伝えたい。
でも、何て言えばいいの? 思ったことをはっきり言えなんて、私には本当に無茶な話だ。




……ううん、無茶ではない。私はいつも、言葉選びや相手のリアクションを気にしすぎて思ったことが言えない。

だから何も考えず、心のままに言葉を発すればいいだけ--


「私が好きなのは、部長だけです」


言えた。


ああ、でも恥ずかしい。穴があったら入りたい。やっぱり私は、自分の気持ちや感情を相手に伝えるのは最大級に苦手だ。
< 47 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop