たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
このタイミングで横断歩道の信号機が赤に変わり、私達は同時に足を止める。
恥ずかしさも気まずさも、歩いていればいくらかは分散される気がするのに、立ち止まっていたら分散されるどころかただ蓄積されていくように感じる。


思わず下を向いて、早く信号機が青に変わることを祈っていると、隣から「綾菜」と名前を呼ばれる。

その声に顔を上げると、彼の方を向いた瞬間、唇を奪われる。そして。


「悪かった」


その言い方はやっぱりぶっきらぼう。


でも、凄く嬉しい。



「私もごめんなさい」


そう答えると、今度はどちらからともなくキスを交わした。



マンションに着くと、リビングのソファに座った彼が、私に隣へ座るように促す。

言われた通りに腰をおろすと、隣からギュッと抱き締められる。


部長の体温は、いつも温かい。そして安心する。


「綾菜」

名前を呼ばれ、彼の右手がすっ……と私の服の中に侵入してくる。


だけど。


「あ、待ってください」


私がそう言うと、彼の手がぴたっと止まる。


「一つ、聞きたいことがあるんです」


私は部長のことが好き。何があってもそれは揺るがない自信がある。

だけど、ううん、だからこそ知りたいと思う。さっき先生が言っていた“横取り”について--。
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