たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
「そうね。亮くんは好きな女の子に嘘を吐くタイプじゃなさそうね」

「でも私、亮さんのことも薫さんのことも実は何も知らないから、どうしたらいいのか分からないんです。薫さんが高校時代に好きだったっていう女性のことも、もちろん何も分からないし」

「その女性なら、ここにいるわよ」

「そう、ここに……って、え?」

いつの間にか俯きがちになっていた顔を上げると、目の前の桜井さんは自分の顔を人差し指で差していた。そして。


「私よ。薫くんが高校時代に好きだった女子っていうのは」

「えぇ!?」

予想外の展開に襲われ、思わず大きな声を出してしまった。自分の声が頭に響いた。


「ど、どういうことですか!? 桜井さんって、あの二人と同級生だったんですか!?」

「言ってなかったっけ? 三人共クラスが一緒で結構仲良かったわよ。だからこそ、あの二人は私の働くこの店を贔屓にしてくれてるのよ」

桜井さんはなんてことないように言うけれど、私は戸惑いを隠せない。

桜井さんまで同級生だったという事実もそうだし、何より、先生が当時好きだった女の子がこんなに近くにいたなんて……。


「じゃ、じゃあ桜井さんなら真実を知っていますよね? 亮さんが横取りした……っていう件について」

部長のことは信じているはずなのに、いざ、あと少しで真相に手が届くと思ったら、途端に緊張と不安に襲われる。


「そのことなら……




全部、薫くんの誤解よ」



全身の力が抜けそうになった……。やっぱり誤解なんだ。良かった……って、全然良くない! じゃあやっぱり、先生は部長のことを何年も誤解してるってことなんだから。
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