たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
「じゃあ、横取りなんて一体どうして……」

「あー。それはぁ」

桜井さんは私から目を逸らし、口元は笑っているけれどどこか気まずそうに口を開く。


「まあつまり、私のせいなのよ」

「桜井さんのせい?」

私が首を傾げると、彼女はようやく私と目を合わせ、観念したかのように。


「高校生の時にね、薫くんは私のことを好きで亮くんに相談してたみたいなんだけど、私はそんなこと全然知らなくて。そんな当時の私が好きだったのは、薫くんじゃなくて亮くんだったのよ。……ここまではOK?」

私は「はい」と答えて頷いた。今のところは、”横取り”要素は何も浮かばない。


「で、私はある日、亮くんに告白したのよ。で、あっさりフラれたって訳」

「亮さんは薫さんの恋愛相談に乗っていたんですもんね」

「うん。でも、それがなくても彼は私に興味なかったんだろうなっていうのが伝わってきて。
恥ずかしながら私、高校時代は結構モテてフラれたことなんてなかったのよ。だから亮くんにフラれたのが恥ずかしくて、しばらく彼とは目も合わせなかったの。
それを心配して声を掛けてくれたのが薫くんだったんだけど」

「だけど……?」

「亮くんと会話がなくなった理由を聞かれて、フラれたからって言いたくなくて、つい『亮くんに告白されたけど私がフッて気まずくなった』って言っちゃったのよ」

「え、えぇ!?」

そ、それは先生が誤解して当然だ! 先生が一体どれだけのショックを受けたか想像するだけで胃が痛くなりそうだ。


「でも、それだと”横取り”というより”抜け駆け”っていう感じですよね」

「噂って怖いわよね。いつの間にか”亮くんが私に告白した”から、”亮くんと私が付き合っていた”に変わっていたのよ」

「えっ……」

なるほど。だから先生は部長に好きな人--桜井さんを横取りされたって思ったんだ……。
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