たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
「その話はもういいだろ」

「でも……」

「……本当のことを話しても、薫が傷付くだけだ。あいつがそんな思いをするくらいなら、俺が悪者でいい」

「え……」


そして。


「言いたくても言えないんだよ。お前なら分かるだろ」


……言いたいことが言えない気持ち。私は痛いほど分かる。だって、それが原因でずっと思い悩んで苦しんできた。


だけど。


部長はきっと、私なんかとは違う。
彼はいつも、私にはっきりと愛を囁いてくれる。
喧嘩した時は子供みたいに意地になって、素直に”ごめん”とは謝ってくれなかったけれど、それでも私のことを離さないと言ってくれた。


気持ちを吐き出せずにウジウジするのは私だけで充分だ。部長にそんな思い、してほしくない。


だから。


ガタッと大きな音を立てて、私はその場に立ち上がった。部長だけでなく、先生と桜井さんも会話をやめて私に注目する。


だけど、そんな視線をお構いなしに、私は。



「言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ! 男でしょ!!!」


……と、店内に響き渡る叱咤を送った。いや……


送ってしまった。
”私が言えたことじゃないよね!?”と、すぐに猛烈な後悔に襲われた。
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