たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
「あ、あの私--」

動揺しながらもひとまず腰をおろす。自分で言うのもなんだけれど大人しい性格の私が急に怒鳴ったことに驚いているのか、三人とも何も言葉を発してくれない。いや、もしかして呆れて何も言えないだけかもしれない。


だけど数秒の間の後、「……そうだな」という部長の呟きが聞こえたのは気のせいだろうか。


ううん、気のせいじゃない。部長は先生の方に体を向け、そして話し出す。


「ずっと薫に言いたいことがあった。言いたくても言えなかったことだ」

ドクン、と胸がざわつく。私が不安になっても仕方ないのに。部長はもっと不安なはずなのに。


「何? 言いたいことって」

「高校生の時--」

「ああ、亮と智ちゃんが付き合っていたって、智ちゃんが嘘吐いてたこと?」



……え?




「何だ。やっぱり気付いてたのか」

「そりゃねぇ。最初は確かに誤解してたけど」


ちょ、ちょっと待って。


「先生! どういうことですか!」

私は身を乗り出し、部長を通り越した先にいる先生に目を向ける。


「いや、だからね。最初こそ誤解してたんだけど、すぐに”亮が抜け駆けや横取りなんてするかな?”と思って、当時智ちゃんと仲の良かった子を問い詰めたんだよ。そうしたらすぐに真相が分かったって訳」

「女子って口軽いわよねぇ」

カウンター越しに桜井さんがおかしそうに笑う。
先生もつられるように笑っているし、部長も”やっぱりな”と言わんばかりにクールな表情だ。

どういうこと。私だけがこの件に関して必死になってたってこと? そんなの酷いと思う。
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