たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
「どこの誰を想い続けているのか知らないが、関係ない。そんな想い、俺が忘れさせてやる」

「部長……」

ドキンドキンと私の胸の鼓動が激しく動き出す。
駄目。心臓、壊れてしまいそう。

私は〝あの人〟のことしか好きになったことはないはずなのに、今感じているこのドキドキは、〝あの人〟にはっきりと片想いしていた頃のものによく似ている。


「綾菜、俺を好きになれ」

そう言われた直後、部長の大きな右手が私の後頭部に添えられ、ぐっとチカラを込められたと思った瞬間、彼の唇が私の唇に押し付けられた。

キス、された。


何度も角度を変えて送られるキスの嵐に、私は何故か抵抗することが出来ない。
動きを封じられている訳じゃないから、逃げようとすればおそらく逃げられる。部長もきっと、嫌なら逃げろ、と思っている。
それなのに、私は彼のキスを受け入れている。

今まで〝あの人〟以外の男性にこんな気持ちになったことは一回もなかった。
だけど、多分部長だから。
部長となら……恋をしてみたいって思っているのかもしれない。


部長の右手が私の後頭部から離れ、今度は私の胸の上に置かれる。


「あっ……それは駄目、です……」

「まだ駄目?」

「まだ、っていうか……」

こういうことは、付き合っている人とするべきだと思うし……。


「〝嫌〟ならやめる。〝駄目〟ならやめない」

「あっ……」

彼の手が服の中に侵入してきて、指がブラの下に差し込まれる。


「ぶ、ちょ……っ」

「〝嫌〟か?」

至近距離で真っ直ぐに見つめられ、心臓が更に加速する。


「……〝駄目〟……」

私がそう答えると、いつも無表情な部長が小さく笑った気がした。


そのままソファに押し倒され、全身に触れられる。

恥ずかしい。会社の上司と、こんなこと……。
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