自由帳【番外編やおまけたち】
・・・・・

「ーーで、今日はここに行くから」


白い乗用車の中で、小林さんはテキパキと説明してくれる。

この場所はお互いの住む街のおよそ中間地点にある山あいの地にある。さすがに自家用車だと遠いということで、小林さんが駅前でレンタカーを借りて待っていてくれていたのだ。

渡されたガイドブックを眺めながらふんふんと頷く私を、小林さんはじろじろと不躾に眺めてきた。さすがに私たちの間柄でも、失礼すぎるのではないかと思うほどだ。


「……小林さん。ちょっと言いたいことがあるんですけど」

「奇遇だな。俺も浅見に言いたいことがある」

「え?! ど、どうぞ……」


文句のひとつでも、と思ったのにため息混じりにそう言われて思わず発言権を譲ってしまった。


「浅見、俺の話聞いてた? 前からここに行こうって話してたよな?」

「もちろん聞いてましたよ? だからこうして完全防備で……あ、あれ?」


小林さんの格好を改めて確認する。少し厚手のシャツの上に暖かそうなボアの付いたベスト。下はラフなジーンズだった。

カジュアルな服装も絵になるな、だなんて思ったのも束の間。おそるおそる目線を上げると、小林さんは呆れたような顔をしていた。


「観光地の高原に行くから少し厚手の軽装で、って言ったよな? その格好。……本気の登山でもするつもりか?」


見下ろした自分のどこからどう見ても完全な山ガールな服装を見て、私は隠れるための穴を掘りたくなった。

ーージャンパーのショッキングピンクが、目にしみる。


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