自由帳【番外編やおまけたち】

小林さんが運転に集中しているお陰で、顔を見られずに済んだ。普段のポーカーフェイスが崩れるとあらわれる顔は、いつも突然で。
怒ったり笑ったりするその目元が、口元がーー私の気持ちをつかんで離さないのだ。

いざ付き合い始めると、片思いとはまた違ったドキドキで心がいっぱいになる。満たされることのない、不思議な感情だとつくづく思う。


ただ気になることは、小林さんの気持ちが見えにくいこと。優しくて面倒見がよい彼の、本音を聞いてみたい。


ーーポーン。


カーナビの案内音で我に返ると、車はなだらかな坂道に差し掛かっていた。あと数キロで目的地らしい。車窓を流れる白樺林が美しく、私の視線を奪った。


「インターンは、村山に全部任せようと思ってる」


小林さんは、まるで自分に言い聞かせるように言った。
普段は煩わしそうに扱っているものの、信頼関係抜群な後輩の顔が浮かぶ。


「継続することで、あいつのコミュニケーション力の高さが生かせる、いいチャンスになるといいんだけど……」


ほら、やっぱり優しくて面倒見がいい。
私の彼氏はとても尊敬できる素敵な人だ。だからこそ、〝恋人としての〟私をどう思っているのか聞いてみたくなってしまうのかもしれない。


「吉と出るか、凶と出るか、ですね……」


きっと今頃くしゃみをしているに違いない村山さんの顔を思い浮かべ、私たちは笑い合った。
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