自由帳【番外編やおまけたち】
「はあ……綺麗でしたね」
穏やかな紫色の花とどこまでも澄んだ青空。山や木々の緑を額縁に見立てると、見知らぬ国の絵画のようだった。
「お気に召して頂けたなら、何より」
陶酔したまま呟く私に、小林さんはおどけて見せる。ここまで連れてきてくれた彼に、感謝しかない。
「今日は連れてきてくれて、ありがとうございます」
改めて言うと、何だか照れくさい。
「よかったよ。正直に言うと浅見が好きそうなものが分からなくて、悩んだから」
優しい顔だ。自分だけに向けられていることを認識した途端、恥ずかしくなる。道の向こうに動く小さな影に気付き、これ幸いと私は視線を逸らした。
「あっ、今あそこにリスがいました!」
私は、逃げ出すように小走りで向かった。
素直になれないまま、時ばかりが過ぎていく。
「あんまりはしゃぐと、転ぶぞ」
たしなめるように、小林さんが声を出す。
少し先まで進んでしまった私は立ち止まって呼吸を整えながら、近付いてくる彼を待った。
「もう、子ども扱いしないでくださ……わわっ」
売り言葉に買い言葉。私が言い返そうと力んだついでに足が滑り、体勢が崩れる。あわや土まみれか、と覚悟した私の腕は力強く引き寄せられていた。ぼす、と堅い音が鼓膜に響く。
「っとに……」
おそるおそる顔を上げれば、困ったような呆れ顔。思えば、自分の行動でいつもこの顔をさせてしまっている。
「浅見、気を付けて。心臓に悪い」
「ス、スミマセン……」