自由帳【番外編やおまけたち】
反省し、大人しく小林さんの後ろを着いて行こうとすると、左手が差し出された。
意味が分からず手のひらと小林さんの顔を交互に凝視すると、強引に右手を取られた。
「これで転ばないな」
ーーえ。て、手が! 繋がれている!
偶然とはいえテレパシーが通じたようで嬉しい。思わずぎゅっと握ると、握り返してくれる。
「ーー浅見は、俺と付き合ってること、後悔してる?」
「そんな訳ないじゃないですか!」
即答した私に、小林さんは笑い声を上げた。
「それならいいんだけど。寂しい思いをさせている自覚はあるよ。ふとしたときに、浅見の顔が浮かぶ」
私も同じだ、と胸が熱くなった。
服を買うときだって、美味しいものを食べるときだって。
『今ここに、小林さんがいたら』
何度そう思ったことだろう。
「お互いの状況からして、遠距離じゃなくなるのは俺に異動が出るか、結婚するかのどちらかだと思う」
「け、結婚?!」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。少し前に先輩の結婚式に出席したけれど、〝いつか私も……〟くらいにしか考えていなかったから。
正直、小林さんがそこまで考えているなんて予想外だったのだ。
「何変な声出してるんだ。付き合うからには先のことも考えるだろ」
あまり言葉にして伝え合うことはしないので、何となく気まずくて聞けずにいたけれど。
ずっとこうして、思ってくれていたんだ。
不意に立ち止まり、しっかり私の方を向いて真剣な顔を見せる。
「もう少し寂しい思いをさせると思うけど。耐えられる?」
「……勿論です」
私たちは駐車場までの道のりをゆっくり進んだ。大きな手の温もりが、とても愛しく思えた。