自由帳【番外編やおまけたち】
それでも時間が経つと、妙な感情が沸いてくるものだ。プリンターが故障する度に呼び出せば、仕事だから当たり前なのだが、ちゃんと来てくれて文句の付けようが無いほど完璧な対応をしてしまう彼に対して、気付けば絶大な信頼を寄せてしまっている。
自社ではどうなのか分からないが、私の前で繕うことのない自然な姿。
そんな彼と関わるうちに、どうにも説明できない、不思議な感情が芽生えてきていた。
正直、信頼と呼ぶにはいささか強すぎる。
佐々岡さんを呼び出す度に、自分の心がぐらついていく。
ひょっとして、これは、もしかしたらーー。
名前を付けてはいけない類の感情なのではないだろうか、なんて。
その微妙な関係をしばらく保ってきてはいたが、この春大きな出来事があった。
ついに稟議が通り、プリンターを買い替えることになったのだ。
色んな機能がてんこ盛りの、最新機種に。
二十代の私でさえ新しい機能に苦戦しているため、桧山所長くらいの年代の社員にはいささか難しい部分があるようで、プリンターについての質問は専ら私に飛んでくる。
いつの間にか私の日々の業務に、〝新プリンターについて勉強すること〟が加えられるようになった。