手をつないでも、戻れない……
 それなのに、俺達はささいな事で喧嘩した。

 美緒が俺から離れるなんて思っていなかったし、まさか、こんな事で別れるなんて考えもしなかった。


 すぐに、美緒の好きなお菓子でも買って行こうと思っていたのに、仕事のトラブルと出張が重なってしまい、なかなか美緒に会えずにいた。


 出張から戻って会いに行けば、笑って許してくれると思っていた。

 わざわざ美緒の出勤に合わせて美緒の家の前を通ったのに、美緒は俺から目を逸らして横を向いてしまった。

 今まで、見たこともない冷たい悲しい目だった……


 何をそんなに怒っているのかもわからなかった。



 美緒ときちんと話をしようと思って美緒の家に行くと、美緒を両腕で抱きかかえるように家へ入って行く男の姿が見えた。


 一瞬にして、どうにもならない怒りが込み上げてきた。

 すぐにでも、美緒の元へ行こうと思ったのだが、美緒の冷たく逸らした目が、俺の足を止めた。



 そのすぐ後だ、浩平から美緒が同棲するために、家を出たと聞いのは。


 俺は、美緒が好きだった。


 だから、美緒と向き合い真実を知る事に臆病になってしまったのだ。
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