手をつないでも、戻れない……
すれ違った想い
 スマホの着信音がテーブルの上で響いた。

 手にすると知らない番号が表示されていた。

 直感がだが、彼からだと思った。


『はい、水嶋です』

『俺、樹だけど』

『はい……』

『今夜、空いているか?』


 予想はしていたものの、やはり一瞬考える。

 用事など無いが、返事をしてしまっていいものか? 

 自分の中に、彼への思いがまだあるから、素直に返事が出来ないのだと思う。

 もう、昔の事と割り切れていれば、気楽に会う事が出来るはずだと思うのだが……


『う……ん……』

 曖昧な返事しか出来ない。


『今夜、七時に西町の駅の前で待っている。どうしも、聞きたい事がある』

 彼は、私の返事などろくに聞かずに、半分強引に言い放って、電話を切ってしまった。


 聞きたい事…… 

 彼が何を聞きたいのかは想像がつく。


 きっと、何も言わず別れた時の事だろう…… 

 だが、今更、事実を知ってどうなるというのだろか? 

 今でも、胸の奥にある想いに、ケリをつける事が出来るのだろうか? 


 それとも、もっと、もっと、熱い想いになってしまったら、私はまた胸の痛みに苦しむかもしれない…… 

 怖い…… 

 そんな気持ちと同時に、胸の奥が勝手に高鳴っていく……

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