手をつないでも、戻れない……
 すでに、彼が予約してあったようで、飲み物のリストだけをウエイターが持ってきた。


「何飲む? 俺はワインにするけど」


「私も、同じものでいいわ」

 注がれたワインで、軽くグラスを交わす。


「始めて来るのか?」

 彼が、ワインを一口飲んで言った。


「こんな高い店、来ないわよ。樹さんは来るの?」


「ああ、時々接待でなぁ……」


「そうだよね。営業部長さんだもんね」

 チラリと彼を見ながら、まだ、新車の事を決めていない事を思い出し、しまったと顔を顰めた。


 すると、彼は、私が考えて居る事を見透かしたようにサラッと言った。


「車の事なら、まだいいよ」


「えっ?」

 驚いて、彼の目を見た。


「美緒、すぐ顔に出るから分かるよ」

 彼は、ふっと笑を見せた。


「そんな事、言われた事ないけど……」


「本当か? 昔から、すぐ顔に出たからなぁ」

 彼に向けられた視線が、胸の奥の何かを動かしそうで、慌てて、気持ちを逸らせようとワインを一口飲んだ。


 その時、部屋のドアが開き、前菜が運ばれ、ほっと胸を撫でおろした。


 綺麗に盛り付けされた前菜に、目が輝く……


「美味しそう……」

 思わず声が漏れてしまった。



「十五年も経つんだな…… あの時も、ここに美緒を連れてこようって思ってた……」


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