手をつないでも、戻れない……
彼は、少し淋しそうな瞳を見せた。


「えっ? そんな……」

驚きとともに、私の表情が固まる。


「まあ、とにかく食おうぜ」


彼は、ぱっと表情を変え、目を細めて笑った。

 その顔に、私の顔も緩んだのが自分でも分かった。


「うん」

 私は、フォークとナイフを手にして、生ハムとチーズを口に入れた。


「美味しい」

 思わず、笑みが漏れてしまった。




 食事も美味しく平らげ、デザートとコーヒーが運ばれてきた。


「なあ…… 美緒。もう一度聞くが、本当に結婚していないのか?」

 彼は、小さくため息をついて私を見た。



「そうよ。女性の魅力に欠けているのかな?」

 私は、軽く流そうと冗談まじりに言ったのだが……


「今更かもしれないが、あの時の事、整理してみないか?」



「そうね……」



 本当に、今更、言い訳をしても何も変わらないし、どうする事もできない。

 でも、ずっと引きずってきた事は確かだ。

 ケリをつけるには、いいタイミングなのかもしれない。


 長い歳月が、なんとかしてくれると、この時は思っていた。
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