手をつないでも、戻れない……
部屋ドアの鍵を開け、中に入ると、彼は手を繋いだまま、もう片方の手で私の頭をぎゅっと胸に押し付けた。
そして、彼の頬が、私の頭にすりつけるように、愛おしく重なる……
もう、どうなってもかまわないと、浅はかな思いが過った時、彼の手が私の頬を優しく撫でた。
その手の、薬指が、ヒヤリとした感触を頬に与えた。
結婚指輪だ……
私は、頬にある彼の手に自分の手を重ね、そっと頬から離した。
「ダメだよ…… 私達、あの時終わったんだよ。そういう運命だったんだよ。自分達が未熟だったから、仕方ない……」
私は、辛そうに顔をしかめる彼を見ながら、薬指の指輪を強く押さえた。
「なんで、あの時、俺は……」
彼が、後悔している事が、痛いほど伝わってくる。
だって、私も同じだから……
「でも、樹さん、今、幸せでしょ? 気まぐれでこんなところに居ちゃダメだよ」
私は、彼から目をそらした。
「気まぐれでなんか、俺はこんな事はしない! 」
そう、言葉を発したと同時に、彼は私腕を引っ張り、玄関の壁へと押し付けた。
重なる目は、熱くて、言葉を発しようした唇を塞がれてしまった。
彼の唇が強く押しつけられるが、それは、優しい感触で、私が恋しくて仕方なった物だと、分かってしまった。