手をつないでも、戻れない……
 その瞬間、私の目から、一筋の涙が毀れた。

 その涙を、彼の指が拭う。


 ゆっくり目を開けると、見下ろしている彼の目からも一筋の涙が落ちた。


 私は、意識もままならないほど、脱力した体かから腕を伸ばし、指で彼の涙を拭った。



 悲しいわけでも、切ない訳でもない、ただ彼を愛しているという涙だ…… 

 彼も同じだと伝わってくる。


 私は今、彼と愛し合えた事に、後悔は無かった。

 たとえ、この先、大きな罪を背負う事になったとしても……


 そして、彼は、裸のまま私を強く抱きしめた。


 私達は、先の見えない過ちへと溺れていった。
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