手をつないでも、戻れない……
「お疲れ様……」

 雅哉の背中に声をかけながら、複雑な思いに胸が痛んだ。

 雅哉の事は、断らなければと決めている。

 だが、理由をどう伝えればいいのか分からない。


 正直に言えるわけもないし、かといって無理な理由づけは雅哉を傷つける事にもなりかねない。


 仕事熱心な優しい人だと思う。

 顔だって悪くない。

 どうして、彼女がいないのか不思議なくらいだ。



 スマホがポケットの中で、振動した。


 メールの着信が光る。


『大丈夫か? 夕べ寝てないだろう。無理するなよ』


 彼からのメッセージだった。

 ふっと笑みが漏れる。

 こんな事で、嬉しくなってしまう自分に、苦笑いした。



『大丈夫よ。そっちこそ無理しないでよ』

 返信文字に指を置いた。


 その瞬間、いいようもない不安に襲われた。

 もし、彼の家族がメールのやり取りを知ってしまったら…… 


 私は、喜んでなんていちゃいけないんだ……



 手にしたスマホを、ぎゅっと握った。

 その途端、また、スマホが振動し、飛び跳ねそうになった。


 メールの相手は、雅哉だった。
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