手をつないでも、戻れない……
 今夜の時間と場所が送られてきた。

 ふう―っと、ため息が漏れた。

 いい返事が出来ないのに、食事というのも気が重い。

 しかし、メールで食事を断わるのも、明らかにノーとっと言っているようで、失礼な気もする。



 仕方ないと覚悟を決め、立ち上がると同時に、スマホの着信音が鳴った。

 画面を見ると、ヘルパーの伊藤さんからだった。


 思わす、歯をぐっと食いしばり、スマホを耳に当てる。

 トラブルだと確信したからだ……


「はい、水嶋です。どうしました?」


「伊藤です。横井さんが病院の受付でパニックになっちゃって、どうしていいか!」

 伊藤さんの声で焦っているのが分かる。

 この様子じゃ、伊藤さんでは対応できないだろう。

 マッチングのファイルを開くが、対応出来そうなスタッフはいない。

 私のいる施設からは、病院まで車で、五分程だ。



 私は、鞄を肩に掛け走りだした。



 横井さんは、二十五歳になる男性であり、自閉症で急な予定変更があると混乱してしまう。

 今日の内科受診は以前から決まっていた事で、何度も繰り返し話をしてあったのだが…… 

 こんな事はよくある事だが、施設外でのパニックは、一歩間違えると周りの人を巻き込む事になる。


 障がい者への理解は、まだまだ難しい世の中だ。
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